2011-05-04 Wed

『本日は大安なり』
辻村深月
2011年2月
角川書店
(『野性時代』2009年8月号-2010年8月号連載)
★★★★
<あらすじ>
一世一代のたくらみを胸に秘める美人双子姉妹、クレーマー新婦に振り回されっぱなしのウェディングプランナー、大好きな叔母の結婚にフクザツな心境の男子 小学生、誰にも言えない重大な秘密を抱えたまま当日を迎えてしまった新郎。憧れの高級結婚式場で、同日に行われる4つの結婚式。それぞれの思惑と事情が臨 界点に達した、そのとき―。世界一幸せな一日を舞台にした、パニック・エンターテインメント長編の大傑作。amazonより
私事ではございますが、singは結婚いたします。3日後に。
だから、というわけではないのですが、結婚式場が舞台の小説です。
特に、(結婚願望あるなしに関わらず)独身者こそ読むべき本と思います。
◇とんでもないドタバタ劇
結婚式当日は、とにかく一日中ドタバタしまくる日です。当人はもちろんですが、式場スタッフの忙しさも相当なものです。ましてや人気の結婚式場となると、1日に15件こなす、なんてこともあるそうです。
さて、本書はそんな超人気の結婚式場を舞台に、4組の結婚式の様子を入れ替わり立ち替わりに追っていく小説です。主人公らしい主人公がいるわけではなく、4組の新郎新婦、そして親戚やウェディングプランナーなど、たくさんの人が登場します。
ある程度読み進まないと、誰が誰やらわからなくなりますが、次第に彼らの裏事情が明かされていくと、もう間違えようのないくらい印象的なエピソードをもった人々であることがわかります。
私が一番衝撃だったのは、ウェディングプランナーの山井さん。自分の担当する式の新婦が、昔○○を△△した相手だとは!
設定そのものはそこまで目新しいものではないと思いますが、この事実が明かされるまで全く気づかなかったのは、山井さんのプロ根性がハンパないがゆえでしょう。
華やかとは思いますが、因果な職業ですね…
本書の奥付を見ると、連載時は1話ずつストーリーがしっかり分かれていたようですが、本作ではシーンごとに主観(視点)が切り替わります。新郎新婦のときもあるし、家族も、式場スタッフのこともあります。まるで糾える縄のよう。
私は連載時に読んでいないので、その再構成がどれほどの変更かわからないのですが、タイムスケジュールはもちろんのこと、心理描写までたいへん緻密な構成を組み立てた著者の手腕には敬服します。
◇双子モノの傑作
古今(特にミステリーで)双子という題材は多く使われてきましたが、そうなると必ずといっていいほど起こるトリックがあります。ご存知、双子の入れ替わりです。
本作でも、とあるカップルの新婦と、その双子の姉が入れ替わります。目的は、新郎がこの入れ替わりに気づくかどうか。
自称「ややこしい」新婦は、式が終わるまでに新郎が気付かなければ、すぐ離婚するつもりでいます。新婦役を演じる双子の姉も、ある理由から、入れ替わりに全面協力します。
ネタバレしてしまうと、結果的に、新郎は見抜きます。
ここで注目は、新郎が「いつ気付いたか」。そして、気付いたことを双子に「いつ打ち明けるか」。逆にいえば、双子は「新郎に見抜かれたことにいつ気付くか」。
3者がそれぞれとても深い思惑を持って、誰にも気付かれず、とんでもないゲームに挑んでいます。ほんとにややこしいですが、こういうややこしい作品が好きな私にはツボでした。
◇けっこんてなに?
周囲は結婚する二人を祝い「トラブルは二人で乗り越えていく」と見守ることでしょうが、実際に結婚するには周囲の協力が不可欠です。
極端にいえば、二人で生活していくだけなら結婚しなくてもいいんです。バイトなりでも働いていれば最低限のお金には困らないだろうし。
同棲と違うのは、互いの家(家族)同士がつながりを持つ、ということだと思います。
それぞれ数十年かけて作り上げ、安定していた家族の形が変わり、「異物」が入ってくるわけです。
それは新郎新婦だけで解決できるものではなく、するべきでもありません。
本作では、そのあたりのリアルな事情なんかも詳しく描かれています。そのため、結婚ってすげー大変だな、と思ってしまいますが、それ以上に良いものなんだろうと思わせてくれます。そして、4組のカップルとその周囲の人々の、真剣勝負に身が引き締まる思いがするのと同時に、ラストのハッピーエンドに感動します。
例えて言えば、大親友の結婚式に出席したような、そんな幸せな気持ちにさせてくれる作品です。
** 著者紹介 **
辻村深月(つじむら・みづき)
1980年2月29日、山梨県笛吹市出身。山梨学院大学附属高等学校から千葉大学教育学部卒。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。幼い頃から読書好きで、「シャーロック・ホームズシリーズ」や「少年探偵団シリーズ」などのミステリーから、「ズッコケ三人組」や「クレヨン王国」などのジュブナイル、「悪霊シリーズ」などのホラー小説などを読んでいた。幼少期からのドラえもんファンであり、『凍りのくじら』では各章にひみつ道具の名前を付けるというスタイルをとった。2010年、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』が第142回直木三十五賞候補及び第31回吉川英治文学新人賞候補となった。2011年、『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞受賞。Wikipediaより

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2011-03-19 Sat
すっかり夫婦仲の冷え切ったインド系夫婦の家に、1通の通知が届く。「3月19日から5日間、夜8時から1時間の停電となります」
外に出歩くわけにも行かないので、自然と2人はそろってキッチンで夕食をとることになる。
ロウソクの灯では互いの表情はわからない。そんな中、妻のショーバが提案をした。
「インドでは停電があると、おばあちゃんがみんなにおもしろい話を言わせるの。私たちは停電の間、これまでお互いに言えなかったことを打ち明けることにしない?」

ジュンパ=ラヒリ著,新潮文庫,2003年2月
★★★
<目次>
・停電の夜に
・ピルザダさんが食事に来たころ
・病気の通訳
・本物の門番
・セクシー
・セン夫人の家
・神の恵みの家
・ビビ・ハルダーの治療
・三度目で最後の大陸
本作はインド系イギリス人による短編集で、これによりオー・ヘンリー賞やピュリッツァー賞(ノンフィクション部門)など多くの賞を受賞しています。
かなり昔に読んだ本だったのですが、今回の計画停電を受けて読み直してみました。時間が経って改めて読んでみると、また違った感じ方ができておもしろかったです。

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2011-01-23 Sun
走り抜け! 「速く」ではなく「強く」――
『風が強く吹いている』
三浦しをん
2006年
新潮社
★★★★
映画版HP
本日は、全国都道府県対抗男子駅伝競走大会が広島で行われましたね。初優勝の栃木県、おめでとうございます。
さて今回は時期を数週間逃がしましたが、日本の正月の風物詩、箱根駅伝がテーマの物語です。
小出恵介主演で映画化もされた有名作品です。
<あらすじ>
ある春の日、蔵原走(寛政大学1年)は、高校時代にインターハイを制覇したスタミナと脚力を生かして、万引き犯として逃走中、清瀬灰二(寛政大学4年)に つかまり、成り行きで清瀬が住むボロアパート、竹青荘(通称アオタケ)に住むことになり、そのまま箱根駅伝を目指すことになる。 しかしアオタケに住んでいる住人は、運動音痴のマンガオタク、25歳のヘビースモーカーなど、とても走れるとは思えないものばかり。練習を重ねるにつれ住 人たちはタイムを縮めていくが、走は「適当に話を合わせておけばいいや」ぐらいしか思っていなかった。しかしある日、走と清瀬が衝突、その直後清瀬は過労 と貧血で倒れてしまう。(中略)たった10人、しかも寄せ集めの陸上部員たち。果たして、彼らは本当に「箱根駅伝」に出場できるのか?Wikipediaより

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2010-12-22 Wed
「輝く光は深い闇よ、深い闇は輝く光よ」
『マクベス』
シェイクスピア
1606年ごろ
木下 順二 (訳)
wikipedia
★★★
前から読んでみたかった古典を読みました。
『7人のシェイクスピア』なども始まり、私が個人的にこっそり盛り上がっているシェイクスピアです。
有名作品ですし、いろいろ驚きだったので、ネタバレありです。
◇あらすじ
舞台は11世紀のスコットランド。
武将マクベスは、魔女にそそのかされて、主人であり国王であるダンカンを殺害します。
しかし、野心は長く続きません。その後、マクベスは、同僚のマクダフに殺されてしまいます。

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2010-11-15 Mon

『リストラなう!』
綿貫智人(たぬきち)著,新潮社,2010年7月
★★★★
元ブログ:たぬきちの「リストラなう」日記
ちょっと衝撃的なタイトルの本書は、大手出版社の経営悪化に伴う早期退職優遇措置に応募したたぬきち氏の、退職の状況を実況したブログ「たぬきちの「リストラなう」日記」を書籍化したもの。
年収1000万強、退職金5000万という赤裸々な数字も公表するたぬきち氏に対して、コメント欄にも賛否両論の議論が。そういったコメントの様子もしっかり収録されていて面白いです。
たぬきち氏の場合「リストラ」というにはちょっと特殊かとは思いますが、早期退職の呼びかけにより職場の空気がどう変わるのか、大手企業の傾く様子、また書籍業界の話などが盛り込まれていて、非常に面白かったです。

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2010-09-25 Sat
「演奏している津島君は、最高にきれいです。」
『船に乗れ!』
� 合奏と協奏
� 独奏
� 合奏協奏曲
藤谷 治
JIVE
2009年7月
2010年本屋大賞 第7位
★★★★
<あらすじ>
音楽一家に生まれた僕・津島サトルは、チェロを学び芸高を受験したものの、あえなく失敗。不本意ながらも新生学園大学附属高校音楽科に進むが、そこで、フルート専攻の伊藤慧と友情を育み、ヴァイオリン専攻の南枝里子に恋をする。夏休みのオーケストラ合宿、市民オケのエキストラとしての初舞台、南とピアノの北島先生とのトリオ結成、文化祭、オーケストラ発表会と、一年は慌しく過ぎていく。書き下ろし、純度100パーセント超の青春音楽小説。(BOOKデータベースより)
2010年本屋大賞 第7位です。いま流行りの青春音楽小説です。
感想は、音楽編と物語編の2回に分けて書いていきます。

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2010-08-28 Sat
「私は、この野球部を甲子園に連れていきたいんです」
『もし高校野球の
女子マネージャー
がドラッカーの
『マネジメント』を
読んだら』
著 岩崎夏海
画 ゆきうさぎ
2009年12月3日
ダイヤモンド社
amazon
★★★★
<もくじ>
プロローグ
第一章 みなみは『マネジメント』と出会った
第二章 みなみは野球部のマネジメントに取り組んだ
第三章 みなみはマーケティングに取り組んだ
第四章 みなみは専門家の通訳になろうとした
第五章 みなみは人の強みを生かそうとした
第六章 みなみはイノベーションに取り組んだ
第七章 みなみは人事の問題に取り組んだ
第八章 みなみは真摯さとは何かを考えた
エピローグ
あとがき

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