2011-05-12 Thu

-発想する会社を作る10の人材ー』
トム・ケリー著,早川書房,2006年
★★★★
<10人の人材>
①人類学者
②実験者
③花粉の運び手
④ハードル選手
⑤コラボレーター
⑥監督
⑦経験デザイナー
⑧舞台装置家
⑨介護人
⑩語り部
「デザイン思考」という言葉が数年前から流行ってますね。これは「フィールドワーク」や「プロトタイプ」「ブレインストーミング」など、物のデザインのための手法を経営に用いた方法論で、IDEOという米国のコンサルティング会社によって提唱されました。それが『The Art of Inovation』という本なのですが、本書はこの続編となります。
デザイン思考のもとでイノベーションを起すに当たって、具体的にこんな人材のタイプが考えられる、あるいはこんな役割が求められている、ということを分類・解説した本です。事例紹介がベースになっていて、IDEOの成功事例を学ぶ上でもおもしろいのでは。
本書では10人のタイプが紹介されますが、自分がどれに当てはまるか、どれを目指すべきかを見つけてみるとおもしろいかもしれません。
========
◎まずはどの人を目指すか
おもしろい人に会うと僕はおススメの本を訊くようにしてるんですが、デザイン思考に関する本は何年も前から勧められていたものでした。今回やっと初めて読めたわけですが(というか読んだあとにこれがデザイン思考って気付いた)、提唱者の書いた本に当たれたのはラッキーだったかも。
まずはデザイン思考の定義ですが、「@IT情報マネジメント辞典」によると・・
基本的には“試行錯誤型アプローチ”で、まずプロトタイプを作り、それを用いたテストマーケティング等を通じて実地の試験・検証を行い、そこで問題を発見、解決するというサイクルを回し完成に近付けていく。
IDEOの発想法を解説した「The Art of Innovation」では、「フィールドワーク」「プロトタイプ」「ユーザーテスト」「ブレーンストーミング」などのツールを使った、理解・観察・視覚化・評価と改良・実現の5つのステップからなる方法論として紹介されている。
経験、感性、異領域の出会い・協業を重視する。
まあ読んだ後初めて知ったわけですが、本書ではこれらのアプローチについて、「人」の視点で解説しています。実際にやってみるときに、それぞれのフェイズでどんな人として振舞うべきなのか。
【情報収集する人】
①人類学者、 ②実験者、 ③花粉の運び手
【土台を作る人】
④ハードル選手、 ⑤コラボレーター、 ⑥監督
【実現する人】
⑦経験デザイナー、 ⑧舞台装置家、 ⑨介護人、 ⑩語り部
本書では特に前半部分に紙幅が割かれていたように思います。その次が真ん中の人々。つまり「材料をどう集めるか」と、「集めた材料の加工にどう人を巻き込むか」。
ただし著者も断っているのは、チームにこの10人すべてが必要なわけではないし、チームに応じて演じるべき役割も変わるという点。誰それが「人類学者」の資質がある、というわけではなく(もちろん資質も重要でしょうが)、何をすべきかは相対的に決まります。なので自分が関わるプロジェクトのメンバーを見渡して、足りない役割を積極的にやってみるのもおもしろいかもしれません。
もちろん、1人が複数の役割をこなすこともあると著者は述べています。本書で述べられている10人は、あくまで仮想的な人物像というわけですね。
◎個性的だと思うのは、レールを歩むのに慣れすぎたから?
本書はIDEOで起きた実際の事例を紹介していますが、特に若手社員の活躍を描いているのが印象的でした。そしてその全てが型破りなのも面白いところ。
例えば顧客のニーズを引き出す役割を担う「人類学者」について言えば、ある企業にレポートするために一般家庭を訪問してビデオを取りまくったり、病院のある患者のベットの脇に48時間居座り続けたりと、とことんやってくれてます。
困難を乗り越える役割を担う「ハードル選手」の例で言えば、これはIDEO社員ではありませんが次のような例も。
・ある装置の購入を上司に反対されたため、決済申請不要な額の請求書100枚に分割して
こっそり購入した3M社員
・契約を切られても、正社員の後ろにぴったりくっついてゲートをくぐり、こっそりアップル
の空き部屋に通って開発を続けた派遣社員
本書を読んで思ったのは、デザイン思考であれなんであれ結局マニュアルを読んだのではダメなんですよね。強烈な情熱を持って、自分の信念に基づき道の無いところを歩かなければならない。
本書ではヘンリー・フォードの次の言葉が紹介されています。
「もし私が顧客に彼らの望むものを聴いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えていただろう」
しかし彼は速い馬ではなく自動車を提供しました。
同様の事例として本書では、ビデオテープのユーザからニーズを聞き出したら「もっと早く巻き戻しができるデッキ」を求められただろうが、世に登場したのは巻き戻しの不要なDVDだった、と述べています。
イノベーションは表層的なニーズから生まれるのではなく、もっと根源的なところから現れます。
デザイン思考だってIDEOが言い出した方法に過ぎなくて、本当に何かをしようとしたら自分で方法論を編み出さなきゃいけないんだろうな、と思わされました。
色んなフェイズで、色んな役割で活躍している人たちや活躍する方法を学べる一冊だと思います。
** 著者紹介 **
Tom Kelley(とむ・けりー)
IDEOのゼネラルマネージャーで、兄で会社創立者のデイヴィッド・ケリーとともに経営に携わり、IDEOを成長させた。おもにビジネス開発、マーケティング、人事、オペレーションの業務を担当するが、必要とあらば他の社員と同様にブレインストーミングやプロトタイプ製作を実践している。
前著『The Art of Inovation』(邦題:『発想する会社!』)は世界的ベストセラー。
(本書より)
Otoya

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2011-04-22 Fri

『知財立県』
-埼玉県発、特許を活かす-
野口満著,工業調査会,2008年9月
★★★★
<目次>
1.特許流通と技術移転
2.埼玉県特許流通活動からのメッセージ
3.知財立県づくり
4.知財活用に成功した
エクセレント・アイピー・カンパニー
5.「ホンダの教え」に学ぶ
6.知的財産は人的財産
地方出身ゆえか、ついタイトルに惹かれて買ってしまいましたよ。
本書はホンダで顕職を歴任した著者が、定年後に知財アドバイザーとして埼玉で活動した記録。
2002年の知財立国政策の一環として特許流通事業というものが開始され、著者は中堅企業の多い埼玉にて活躍をされました。
ゼロから埼玉の特許流通事業を立ち上げ、地道に足を使っての活動はなかなか真似できるものじゃないです。知財ってやっぱ泥臭いなーと思いつつ、人と人の繋がりがまた醍醐味であることも思わせてくれた一冊です。
(知的財産てなんだ? という方はこちらからどうぞ)

関連するタグ Otoya 【一般書】 【経済産業】 【知的財産】 野口満
2011-04-13 Wed
スマートフォンの普及に伴いますますPCは身近なものになりました。『クラウドコンピューティング』で「コンピュータは、世界に5つあれば事足りる」という言葉が紹介されていましたが、本当にデータの場所って気にならなくなってきてますねえ。
野村総研の『IT市場ロードマップ2011』によれば、今後はモバイルルータと携帯機器間の連携が進み、ますますコンテンツの取り扱いがシームレス化するようです。
クラウドを利用してオフィスにとどまらない、「ノマド・ワークスタイル」という働き方もよく耳にするようになりました。
そんな中で紹介するのが本書。
著者は『TIME HACKS』などHACKSシリーズの小山龍介氏で、ノマドワークを実践する著者が、今回もクラウドの色々な使い方を提案してくれています。クラウドクラウド言われてもちょっとついていけてない僕なので、この本を読んで勉強してみましたよ。

『クラウドHACKS!』
小山龍介著,東洋経済新報社,2010年12月
★★★★
<目次>
1.データHACKS!
2.情報収集HACKS!
3.ノマドワークHACKS!
4.クラウドタイムHACKS!
5.クラウドチームHACKS!
6.アウトプットHACKS!
7.クラウド手帳HACKS!

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2011-04-03 Sun
『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』

辻野晃一郎著,新潮社,2010年11月
★★★★
<目次>
1.さらばソニー
2.グーグルに出会う
3.ソニーからキャリアをはじめた理由
4.アメリカ留学
5.VAIO創業
6.コクーンとスゴ録のチャレンジ
7.ウォークマンがiPodに負けた日
8.グーグルの何が凄いのか
9.クラウド時代のワークスタイル
10.グーグルでの日々
11.グローバル時代のビジネスマインドと
日本の役割
本書は元グーグル日本法人代表取締役である辻野氏の回顧録。
おもしろいのは何といっても氏の経歴で、20年以上ソニーに勤め、VAIOやスゴ録(おススメの番組を自動録画してくれる機能)、グーグルTVの原型ともいえるコクーンを生み出してきました。それら事業部門のトップマネジメントをこなしながらもソニーを退社した辻野氏。
本書はタイトルこそ「みんなソニーが教えてくれた」ですが、この言葉には皮肉がこめられていて、反面教師的な意味合いでの「教えてくれた」というニュアンスが強いように感じます。
大企業に「なってしまった」ソニーと新興企業のグーグルを改めて比較してみて、このままでいいのかな、と思わされる一冊でした。

関連するタグ Otoya 【一般書】 【歴史/人物】 【経済産業】 辻野晃一郎
2011-03-26 Sat
価値とは何か、美とは?このマンガを読む限りでは、前者を「ビジネス」と置き換え、後者を「人生」と解釈できるかもしれません。
置かれた状況下でなんとか口を糊そうと糧を生みつつ、その苦労の上でアイデンティティを探ろうと足掻く。そういった生きることの辛さと意味を、こうもおもしろおかしく見せ付けてくれちゃうんだから、このマンガは本当にたまりません。

『へうげもの』
山田芳弘著,講談社,2005年12月~
現在『モーニング』にて連載中,単行本①~⑫服
★★★★★
第32回講談社漫画賞一般部門ノミネート
第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞
第14回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞
第1服~8服のレビューはこちら

関連するタグ Otoya 【その他】 【マンガ】 【文化/芸術】 【歴史/人物】 山田芳裕 へうげもの ★★★★★
2011-03-19 Sat
すっかり夫婦仲の冷え切ったインド系夫婦の家に、1通の通知が届く。「3月19日から5日間、夜8時から1時間の停電となります」
外に出歩くわけにも行かないので、自然と2人はそろってキッチンで夕食をとることになる。
ロウソクの灯では互いの表情はわからない。そんな中、妻のショーバが提案をした。
「インドでは停電があると、おばあちゃんがみんなにおもしろい話を言わせるの。私たちは停電の間、これまでお互いに言えなかったことを打ち明けることにしない?」

ジュンパ=ラヒリ著,新潮文庫,2003年2月
★★★
<目次>
・停電の夜に
・ピルザダさんが食事に来たころ
・病気の通訳
・本物の門番
・セクシー
・セン夫人の家
・神の恵みの家
・ビビ・ハルダーの治療
・三度目で最後の大陸
本作はインド系イギリス人による短編集で、これによりオー・ヘンリー賞やピュリッツァー賞(ノンフィクション部門)など多くの賞を受賞しています。
かなり昔に読んだ本だったのですが、今回の計画停電を受けて読み直してみました。時間が経って改めて読んでみると、また違った感じ方ができておもしろかったです。

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2011-03-17 Thu
地震から1週間が経とうとしています。追いうちをかけるように寒い日が続いて、被災地が本当に心配です。
原発に報道が集中していますが、東北の各被災地の様子や、注目されていないけれど新潟や静岡、千葉の人たちにも早く救援が行き届いて欲しいと思います。
当サイトも被災を免れ、自粛することなくこれからも更新を続けていきたいと思います。
地震の被害を受けなかった僕たちにできることはとてもとても限られていますが、数少ないできることのひとつが「いつも通りに生活すること」だと思います。そしてできることなら、「いつも以上に生活すること」をしたいです。
今回の歴史的な震災で、日本経済は大きなダメージを受けるでしょう。
外貨が出て行くかもしれません。税金も上げざるを得ないかもしれません。サプライチェーンが回らず雇用に不安が起きるかもしれません。
今回の震災で被災したよりも遥かに多くの人が、今後経済的な不安を理由に不幸になるのではないか。そんな予測も聞こえます。

テーマ:なんとなく書きたいこと。。 - ジャンル:日記
関連するタグ Otoya 【Otoya】2011-03-12 Sat

ジョージ=フリードマン著,2009年10月
★★★★★
<目次>
序.アメリカの時代とは何か
1.アメリカの時代の幕開け
2.地震 -アメリカの対テロ戦争
3.人口、コンピュータ、そして文化戦争
4.新しい断層戦
5.2020年の中国 -張り子の虎
6.2020年のロシア -再戦
7.アメリカの力と2030年の危機
8.新世界の勃興
9.2040年代 -戦争への序曲
10.戦争準備
11.世界戦争 -あるシナリオ
12.2060年代 -黄金の10年間
13.2080年 -世界の中心を目指す戦い
今後100年を占う1冊。
前回は、本書が地政学的手法と「20年先はわからない」という点を基本として未来予測している点を紹介しました。
今回は本書の中でも特に気になったシナリオ、中国、日本、トルコ、メキシコの未来予想図についてコメントしたいと思います。

関連するタグ Otoya 【一般書】 【社会/政治】 【未来学】 100年予測 ★★★★★
2011-03-10 Thu
100年後の世界情勢はどうなっているのか?これってどの時代も言われてきたテーマだと思うんですが、僕はこうした未来予測に興味があって、1冊読んでみました。地政学の手法を用いて、まずは1900年からのこの100年の経緯を分析し、2010年以降について10年刻みで予想しています。
中国とロシアの崩壊、日本・トルコ・ポーランドの勃興、世界戦争は起きるが大規模なものにはならないというシナリオ、そしてアメリカから唯一覇権を奪えるとしたらメキシコではないかという予想、などなど非常に刺激的な内容でした。
ちなみに本書はクーリエ・ジャポンという雑誌が選んだ「30歳までに読んでおきたい世界の名著100冊」でも紹介されていました。

ジョージ=フリードマン著,2009年10月
★★★★★
<目次>
序.アメリカの時代とは何か
1.アメリカの時代の幕開け
2.地震 -アメリカの対テロ戦争
3.人口、コンピュータ、そして文化戦争
4.新しい断層戦
5.2020年の中国 -張り子の虎
6.2020年のロシア -再戦
7.アメリカの力と2030年の危機
8.新世界の勃興
9.2040年代 -戦争への序曲
10.戦争準備
11.世界戦争 -あるシナリオ
12.2060年代 -黄金の10年間
13.2080年 -世界の中心を目指す戦い

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2011-03-03 Thu
こんにちはOtoyaです。今回は書評ではなく思ったことを書こうかと思います。
今回考えたのは「実装力」の重要性。
成果を上げるためには「着想」と「実現」の2段階のプロセスが必要になりますね。ここで例えばウォークマンやiPodなんかを考えると、高い技術力もさることながら、「音楽を持ち出せるようにしたこと」「自分の持つ全ての音楽にアクセスできるようにしたこと」といった、人のライフスタイルを変えたコンセプト(着想)が評価のポイントになっていると思います。
だけどアイディアも大切だけど、それ以上に重要になるのが「実装力」になるのでは。
========

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