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ラ・フォル・ジュルネ
【ミステリ】 『オーデュボンの祈り』
この島には最初から欠けているものがある。
そしてカカシは自殺した・・・。




オーデュボンの祈り (新潮文庫)
 『オーデュボンの祈り』
 伊坂幸太郎著,新潮文庫,2003年11月

 ★★★★

 新潮ミステリ倶楽部賞


 









コンビニ強盗で捕まった伊藤は、気がつくと見知らぬ島にたどり着いていた。
その島「荻島」は、江戸時代以来外界から鎖国を続ける島だった。島には、嘘しか言わない画家や、島の法律として殺人を許された男、そして未来の見えるしゃべるカカシ「優牛」がいた。

伊藤が島に着いた翌日、カカシはバラバラにされ、頭を持ち去られて死んでいるのを発見される。
「未来がわかるカカシがなぜ自分の死を阻止できなかったのか?」と伊藤。
「この島には、大切なものが最初から欠けている」という謎の言い伝え……



伊坂幸太郎のデビュー作『オーデュボンの祈り』です。
理系小説家ならではのパズルを解くような幾何学的ストーリーの中に、伊坂幸太郎ならではの緩やか旋律が響きます。


========


◎ジグソーパズルのピースのような登場人物

まずは登場人物を紹介しましょう。
非常に個性的な人物たちが、江戸時代以来鎖国を続ける「荻島」に住んでいます。そして登場人物たちには一切の無駄が無く、物語の謎を追う中でそれぞれがそれぞれの役割を演じ、結末に向けて有機的に紡がれていきます。
その様子はまるでピタゴラスイッチのよう。まさに伊坂幸太郎の醍醐味ですね。

伊藤
 …この話の主人公。知らぬ間に荻島に連れてこられた。
優午
 …未来を予知できる、しゃべるカカシ。伊藤が島に着いた翌日に死体となって見つかる。
日比野
 …主人公に島を案内した男。適当で、人の話をあまり聞かない。

 …島で唯一外に出られる人間。色々となぞが多い男。
曽根川
 …もう一人の島の来訪者。主人公より前に来ていて、轟と何かあるらしい。

 …島の法律として殺人を許された男。詩をよく読み、彼のポリシーに従い島民を射殺する。
園山
 …嘘しか言わない画家。妻を無くして以来、何を聞いても嘘しか言わない。
田中
 …ジョン・オーデュボンリョコウバトの話を伝える人物。優午と仲がよく、足が悪い。
ウサギ
 …300kgはあるという女性で、動けない。ウサギの夫は家から妻の様子を定期的に見に来る。

城山
 …人を痛めつけるのが趣味の極悪人。警察官で、コンビニ強盗をしようとした伊藤を逮捕する。
静香
 …主人公の元恋人で、仕事人間。
祖母
 …既に死んでいる設定だが、描写が多い。



◎デビュー作から全開の伊坂世界

シュールリアリズムと言いますか。
江戸時代から鎖国した島や、しゃべる予知のできるカカシなど、現実から数mm浮いた舞台設定にもかかわらず、読者に違和感を与えずその舞台設定を活かしきっているのが流石。
支倉常長のエピソードや、理系出身の著者の科学知識(ディジタルの原理やカオス理論、初期値鋭敏性など)など、設定により裏付けていることはもちろん、その軽快な筆致が読者を惹きつけています。

ミステリ小説という切り口から見ると、「荻島」という密室で起きた殺人(というか殺カカシ)について、外部から来た主人公が探偵の役割をして、島の人々の話を聞いて真相を探していきます。
ちなみに、この物語の真相に「殺人事件が起きるのは探偵が現れるからだ」という著者の推理小説に対する指摘がうまく用いられているのもおもしろいですね。
また、「私は嘘しか言わない」のパラドクスなど、論理思考の遊びが使われているのもニヤリとさせられます。

ただ最大の醍醐味はそこではなく、あくまでも推理小説というストーリー形式を追いながら、主人公の自問自答を通して彼の成長に繋がるところ。ところどころに挿入される亡き祖母とのエピソードが、ストーリーには直接関係無いにもかかわらず、物語を彩っています。
ファンタジーであり、ミステリであり、そして青春小説であり、エッセイである。
伊坂幸太郎という1つのジャンルを形作る要素が、この1冊に詰められています。



◎衝撃のラストシーン

これを衝撃と言わずしてなんと言えばいいでしょう。
どんでん返しとも違う、裏切られたのではなく、階段を踏み外したような、「その手があったか!」という読後感。物語最大の謎であるカカシの死の真相は、ミステリ史上でもこれまでにないものではないでしょうか。

「未来を予知できるカカシがなぜ自分の死を予想できなかったのか」

という前提に既に罠があり、

「この島には最初から大切なものが欠けている」

というヒントに伊坂幸太郎の根底に流れるメロディが現れています。
あなたはカカシの企みの理由を見破ることができるでしょうか。
読んで爽快になれる一冊です。伊坂幸太郎をまだ知らない人はぜひどうぞ。


なお、本作は村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の「世界の終わり」の影響を受けているようですが、あまりわかりませんでした。というか『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』自体が難しすぎてわけわかめ。
こちらも含めて、今後も伊坂幸太郎作品をレビューしていきたいと思います。


** 著者紹介 **
伊坂幸太郎(いさか こうたろう) 1971~
東北大学法学部卒業後、SEとして働くかたわら文学賞に応募、2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。その後作家専業となり、エンターテインメント性豊かな作品を発表し若い世代を中心に支持を集めている。
作品間での舞台設定や登場人物、事件にリンクがあることが特徴。また、多くの作品について、在住の仙台を舞台にしている。
『重力ピエロ』『グラスホッパー』『死神の精度』等で直木賞候補となる。本屋大賞において唯一第1回から第4回まですべてにノミネートされ、第5回に『ゴールデンスランバー』で同賞を受賞。同作品で第21回山本周五郎賞も受賞。さらに直木賞候補にもなるが、これについては「執筆に専念する」としてノミネートを辞退。
(wikipediaより)



** 伊坂幸太郎のレビュー **
『魔王』


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推理/ミステリ | 23:49:47 | トラックバック(1) | コメント(0)
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◎「オーデュボンの祈り」 伊坂幸太郎 新潮社 1785円 2000/12
 図書館へ出向くたびに、本書『オーデュポンの祈り』が棚に二冊並んでいることに気付く。いちいち認識する。いちいち記憶の上に再度上書きされる。多分、あまり誰も借りることなく、毎回同じ場所で評者の目の中に焼き付けられるからだろうし、題名が謎的だからだろう。勝...
2010-01-15 Fri 09:01:21 | 「本のことども」by聖月