2010-07-11 Sun

『氷菓』
米澤穂信
角川文庫
2001年10月
★★★
<あらすじ>
省エネをモットーに生きる高校生、折木奉太郎は、高校入学に際し、海外旅行中の姉から手紙を受け取った。その内容は、高校時代の姉がかつて所属していた古典部に入れ、というものだった。今年新入部員が入らないと古典部は廃部になるそうだ。
奉太郎は面倒に感じながらも入部した。誰もいないはずの部室に向かうと、そこには先客つまり入部希望者「千反田(ちたんだ)える」がいた。この好奇心旺盛なお嬢さまには、古典部に縁のある叔父がいた。えるは、当時叔父が関わったある事件について語り始めた――

◇推理は、効率を上げて楽をするため
学園を舞台に推理を展開するようなジャンルの作品は、他にも数多くありますが、特に事件らしい事件が起こらないので、どうにも不思議に思っていたのですが、どうやらこれが著者の持ち味のようです。ユニークな発想から真実を導き出すわけでもありませんが、数少ない資料から地道な検討を重ね、「矛盾がなく、最も説得力のある仮説」を導きだしていくプロセスは、なかなか好感が持てました。
少し気になったのは、ライトノベルのような文体。ライトノベルは嫌いではありませんが、読む前の勝手なイメージでは、もう少し硬派な感じを期待していたもので。
と思ったら、著者はライトノベル出身だったんですね。出版が2001年という事を考えると、当時の感覚では新しいジャンルの小説として銘打たれていたのでしょうか。
◇面白いには面白いんだけど
後から知ったのですが、本作はシリーズ物だそうです。
2作目、3作目と読めば作品間の繋がりなんかも見つかり楽しめるのでしょうが、残念なことに私には1作目がそこまで続きを読みたくなるようなものではありませんでした。
「氷菓」の命名の由来なんかも、面白いとは思いますが、言葉遊びで終わってしまった感があるのが残念です。
また、手紙と電話でしか登場しない主人公の姉の謎めいた雰囲気はけっこう好きでしたが、先が読みたくなるほどの伏線というか前フリではなかったので、勿体ないなーと。インドやらイスタンブールやらにいる設定は面白いと思いますし、それには千反田えるの叔父がインドあたりで行方不明になったという事実も関係しているのでしょうが、そこまで気になるものでもなかったです。
もし「それでも先を読めば絶対面白くなる」と誰かに勧められることがあれば、読もうかと思います。
◇古典部vs.読書クラブ
直接関係のない作品を比べるのはあまり好きではないのですが、本作とどうしてもダブってしまう作品があるので、軽く触れておきます。
それは『青年のための読書クラブ』。こちらもレビューしてますので良かったらどうぞ。
過去の事件が現在の出来事につながっていること、舞台が学園であり所属する団体が"読書クラブ"と"古典部"という風によく似ていること、昔からある部活に隠された謎を解くこと、キーアイテムが部の歴史を記録した「文集」であること、周りからみればたいした事ではない出来事が事件とし扱われることなど、設定がほとんど一緒です。
「読書クラブ」は短編集でしたがその1編が本作の1冊に当たると思われます。だから、1冊だけ読んで判断するのは尚早なのでしょう。
「読書クラブ」はさらに、過去の名著を取り入れたストーリーになっている、という大きな特徴もありますが、しかし、本作は特に続きが読みたくならなかった。昔の学生闘争の頃のエピソードは面白かったですが、過去と現在のつながりが見所というわけでもないように感じて、物足りなさが残りました。
もちろん、設定が似ているだけでストーリーは違いますし、出版された時期によることもあるでしょうが(『読書クラブ』は『氷菓』の6年後)、単純にパクリだとかいうつもりは全くありません。パクリとか言う人がいたら両作のために反論します。
推理の展開も楽しめます。しかし、それ以上の心に響くものがもう少し欲しかった、と思います。
** 著者紹介 **
米澤 穂信(よねざわ・ほのぶ)
1978年、岐阜県生まれ。2001年、『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞してデビュー 。 また、「このミステリーがすごい!2010年」では、作家別投票第1位にランクイン。2007年、〈古典部〉シリーズの短篇作品『心あたりのある者は』が第60回日本推理作家協会賞短編部門の候補作となる。2008年にはノンシリーズの『インシテミル』が第8回本格ミステリ大賞小説部門の候補作となる。(Wikipediaより)
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