2011-03-12 Sat

ジョージ=フリードマン著,2009年10月
★★★★★
<目次>
序.アメリカの時代とは何か
1.アメリカの時代の幕開け
2.地震 -アメリカの対テロ戦争
3.人口、コンピュータ、そして文化戦争
4.新しい断層戦
5.2020年の中国 -張り子の虎
6.2020年のロシア -再戦
7.アメリカの力と2030年の危機
8.新世界の勃興
9.2040年代 -戦争への序曲
10.戦争準備
11.世界戦争 -あるシナリオ
12.2060年代 -黄金の10年間
13.2080年 -世界の中心を目指す戦い
今後100年を占う1冊。
前回は、本書が地政学的手法と「20年先はわからない」という点を基本として未来予測している点を紹介しました。
今回は本書の中でも特に気になったシナリオ、中国、日本、トルコ、メキシコの未来予想図についてコメントしたいと思います。

◎乱世の奸雄は再び起つか?
僕は中国にけっこう注目していて、というか今中国に注目していない人って少ないとは思うんですけど、中国行ったり中国関係の本読んだりしてました。(レビューは知財関係だけですが・・)
『中国の科学技術力について』
『中国における技術標準化と特許』
その中で、中国が今後アメリカに匹敵しないまでも、アメリカに次ぐ大国化を実現すると信じていたので、著者の2020年中国崩壊という予測は少なからず衝撃でした。
著者が中国が覇権国になれないと予想する理由は以下の通り。
・歴史的に中国は内向的な国であり、中国圏の外に足を伸ばしたことは無い
・中国は海洋国となることは難しい
・沿岸部と内陸部との貧富さは問題であり、経済発展するほどこの問題は深まる
また、中国が外国と接触したとき必ずこの問題を起因に分裂が起こっている
・現在の経済成長は言わばバブル状態であり、不良債権率は25%と日本のバブル期よりも
悪く、近い将来耐えられなくなる
具体的には、世界的な人口減少を受けて労働力を確保したいアジアの近隣国、すなわち日本からの経済的な介入を受けて、沿岸部と内陸部を境に分裂し、地方分権の時代が来ると予想しています。
統一と分裂を繰り返してきたのが中国の歴史なので、また分裂してもおかしくは無いものの、近い将来にこれが起きるというのは不思議な感じがしますねえ。
だけど経済成長のバブル感には賛成で、国の規模が大きいだけに政府が調整しきれていないのでは、とも思います。かつての日本と違って13億が揃って総中流になるはずもなく、この発展のゴールをソフトランディングさせることができるかは、わりと中国の将来を決める上で岐路になるのでは。
◎トルコは親日国なので40年後の同盟は夢ではないが…
著者は地政学的に紛争の火種となりうる地域を5箇所挙げた上で、その1つにアジアを挙げています。その理由はアメリカの海洋支配と利害が直接ぶつかるというもので、具体的には日本が、いずれはアメリカと対立する必要があると述べています。すなわち、人口減少・高齢社会化に伴い外国の労働力の確保が不可欠となるという予測のもと、アジアに手を広げる日本をアメリカは無視できなくなるとのことです。
ただ著者は、アジアに勢力を広げる中で日本の軍国主義が復活するとまで予想しているんですが、僕はそれには疑問。対アジアという文脈では、そうすることについてリスクというかデメリットの方が大きいのでは。いや、でも幕末から戦後までの歴史を踏まえると、40年あればそのくらいの転換は有りうるのかな。
著者は日本の特質について、時代時代の課題に柔軟に方向を変えられる点を評価しています。予測の是非はさておき、外国人から見た日本の将来というのは参考になりますね。
ただそれよりおもしろかったのがトルコ。著者は2040年の準覇権国を日本、ポーランド、トルコと予想しているのですが、トルコはかなり有りそうですね。
もっともこの予想は「2020年代のロシアの再度の崩壊」というシナリオが下敷きになっており、僕はこれについては実現可能性がそこまでは高くないと思っています。なので、トルコは本書で述べられるような帝国にはならないかもしれません。
とはいえ、トルコが歴史的に見れば現在は例外的に国土が小さくなっていること、周辺イスラム諸国の性格、そしてVISTAにも数えられている現在のトルコの経済状況と、地理気的な位置付けを考えれば、トルコの地域覇権国化はかなり現実的なのではないでしょうか。
なお著者の予想によれば、このトルコが日本と同盟を組んでアメリカと立ち向かいます。
半ばギャグとは前置きしつつも、2050年に日本軍が極秘裏に月面基地を発し、地球衛星軌道上の米軍宇宙ステーションに奇襲攻撃をかける……というシナリオはなかなか真に迫っていましたよ。
◎70年後のアメリカの主食はタコスかもしれない
さて、あらゆる国に影響を及ぼす地政学上の重心である覇権国アメリカ。著者はアメリカの時代が始まったのは1991年の冷戦終結からで、これから本格的になると予想しています。
ただし正確には「北米の時代」と言うべきであると指摘し、「ヨーロッパの時代」の覇権国が移り変わったように、北米大陸内で覇権国は変わりうる点を示唆しています。
つまりメキシコなんですけど、著者は2060年~80年頃、アメリカの労働力が不足から過剰に変じる頃に、メキシコがアメリカに挑戦しうると述べています。また同時に、超大国アメリカに挑戦しうる国は地政学上メキシコしかありえないとも述べています。
この理由は以下の通り。
・メキシコはアメリカに対する労働力供給地であり、現在も国境や文化的境界が曖昧で、
将来のアメリカの労働力不足/過剰に対して最も影響を与えうる
・ロングレンジの攻撃力を持つアメリカに「隣接」した数少ない国である
・アメリカとの歴史的経緯
・人口が多く経済成長が著しいので、力も持つはず
他の国と違ってアメリカに地理的・文化的に近すぎるゆえに、内部からアメリカを破りうるというのが大きな理由。これはものすごく意外な予想だったんですけど、全面戦争という形で争うことができないならば(よほどのことがない限り100年以内にアメリカとの全面戦争に踏み切る国がでてくるというのは現実的ではない)、メキシコの持つ特殊な事情は確かにアメリカを食いうるかもしれません。
人口動態と地政学に着目した本書の予測はかなり冒険をしつつも合理的で、「あり得る!」と肯かされる一冊でした。本書の予測が現実にならないまでも、国際的な力学の机上実験として読むだけでも楽しめるかもしれません。変化していく世の中を眺める、新しい切り口が得られますよ。おススメの1冊です。
<<『100年予測』レビュー(1/2)
** 著者紹介 **
George=Friedman(じょーじ ふりーどまん)1949~
ハンガリー生まれ。ニューヨーク市立大学卒業後、コーネル大学で政治学の博士号を取得。ルイジアナ州立大学地政学研究センターを経て、1996年に情報分析機関ストラトフォーを創設した。テキサス州在住。
著書に『新・世界戦争論―なぜアメリカは戦うのか』『ザ・カミング・ウォー・ウィズ・ジャパン―「第二次太平洋戦争」は不可避だ』など多数。
(本書より)
Otoya
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