2011-04-03 Sun
『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』

辻野晃一郎著,新潮社,2010年11月
★★★★
<目次>
1.さらばソニー
2.グーグルに出会う
3.ソニーからキャリアをはじめた理由
4.アメリカ留学
5.VAIO創業
6.コクーンとスゴ録のチャレンジ
7.ウォークマンがiPodに負けた日
8.グーグルの何が凄いのか
9.クラウド時代のワークスタイル
10.グーグルでの日々
11.グローバル時代のビジネスマインドと
日本の役割
本書は元グーグル日本法人代表取締役である辻野氏の回顧録。
おもしろいのは何といっても氏の経歴で、20年以上ソニーに勤め、VAIOやスゴ録(おススメの番組を自動録画してくれる機能)、グーグルTVの原型ともいえるコクーンを生み出してきました。それら事業部門のトップマネジメントをこなしながらもソニーを退社した辻野氏。
本書はタイトルこそ「みんなソニーが教えてくれた」ですが、この言葉には皮肉がこめられていて、反面教師的な意味合いでの「教えてくれた」というニュアンスが強いように感じます。
大企業に「なってしまった」ソニーと新興企業のグーグルを改めて比較してみて、このままでいいのかな、と思わされる一冊でした。

◎「自由闊達にして愉快なる理想工場」はいまどこにあるのか?
真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設
この有名な文章は創業時に起稿されたソニーの設立趣意書ですが、この言葉が本書の意図するところを最も端的に言い表しているといっていいでしょう。設立趣意書には他にも以下のような名言が書かれています。
・不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず
・経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがために進みえざる分野に、技術の進路と経営活動を期する
・従業員は厳選されたる、かなり小員数を持って構成し、形式的職階制を避け、一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き個人の技能を最大限に発揮せしむ
いまのソニーが本当にこの趣意書を体現しているのか? というのが本書の投げかけるところ。
本当に今のソニーは「自由闊達にして愉快なる理想工場」と言えるのでしょうか。
本書では、メガトレンドの読めない役員たちや社内政治、部門間の争いなど、辻野氏が直面したいわゆる大企業ならではの障害が描かれています。
それらに悩みながらもVAIOやスゴ録を成功させていく辻野氏の手腕は読んでいて非常におもしろかったのですが、結局彼は会社を去らざるを得ませんでした。
コクーン(インターネットTVの原型)に取り組むにあたっての「テレビはもはや受像機ではなく、ネットワークと親和性の良いコンピュータとなるはず」という強い信念には特に筆に力が入っていて、トップはこういうビジョンを示してこそだよなーとか思ったんですが、これも消えてしまったようです。
そしてこれらの出来事と対比するように、転進後のグーグルでの様子が描かれます。
グーグルと言えば「勤務時間の20%は業務と関係ない好きなことをやれ」というルールが有名だったり、おもしろい企業ですね。
◎個人的にはソニーの躍進に期待
大企業の進む道については『イノベーションのジレンマ』でよく分析されていて、大きくなりスピードを失った企業は構造的にイノベイティブな小規模企業に勝つことはできないとされています。
ソニーの設立趣意書に既にこのことが書かれていたのは皮肉なことですが。
じゃあ大企業はどうすればいいのか? の答えは『イノベーションのジレンマ』に譲るとしても、企業の規模によってこうまでカルチャーが変わるというのはおもしろいですね。
ただ規模と言えばグーグルも既に大企業となっていますが、この点について辻野氏は「グーグルは社員一人ひとりが自分の会社が示す将来について揺るぎ無い確信を持っている」と評価しています。できて10年という企業の若さもあるんでしょうけど、具体的なビジョンというのは大切だと思います。
辻野氏はソニー時代で部門の社員に対して、「自分の仕事が自分の職場に、自分の事業部い、自分のカンパニーに繋がっていることを意識するように」という趣旨のメールを発信していますが、末端構成員の僕としてはこの辺はちゃんと気をつけたいと思いました。
高齢化にともなうライフワークバランスや、新興国市場の発展と労働力の移動や、コモディティ化とネットワーク化に伴う競争環境の国際化や・・。本当に色んなことが今起きていて、企業のあり方や働き方というのはこれからの10年で劇的に変わるんじゃないかと思います。
その流れを踏まえて、ソニーとグーグルという2つの企業の00年代を比較して読めたのは面白かったです。
なお大企業という観点では、某大手出版社のリストラを描いた『リストラなう』という本もおもしろかったです。興味のある方はどうぞ。
** 著者紹介 **
辻野晃一郎(つじの こういちろう)1957~
1984年ソニー入社、1988年カリフォルニア工科大学大学院終了。
VAIO、スゴ録など大ヒット商品を次々と生み出し、2006年にソニーを退社。
その後グーグルに入社してグーグル日本法人代表取締役社長に就任。
2010年にグーグル退社後はアレックス株式会社を創業した。
(本書より)
** 他にこの本を紹介しているサイトさん **
・「ビジネスブックマラソン」さん
Otoya
=== ノート ===
◎印象に残った辻野さんの言葉
・大多数の企業個人は、結局現状を変えることのリスクの方を恐れ、過去にこだわったり、現状に甘んじて衰退していくわけだ。
変化の激しい時代だからこそ、変化を恐れて何もしないことのリスクの方が大なることを我々はいつも肝に銘じなければならない。
・自分の仕事→自分の職場→自分の事業部→自分のカンパニーと意識するように
→自分のクライアントも
・「約束(xommitment)」は本来、それを果たさなければ明確な責任を取る、という重い言葉である
・自分の会社が示す将来について揺るぎ無い確信を持っているか?
◎語録など
【グーグル語録】
・Dont do something just because someone said to do it
・Focus on the user and all else will follow
・Its best to do one thing really, really, well
・Fast is better than slow
・You can make money without dooing evil
・Theres always more information out there
・Great just isnt good enough
【その他】
・社内改革における抵抗勢力への対抗方法:"just ignore them"(カルロス・ゴーン)
・Aクラスの人はAクラスの人と仕事をしたがる。Bクラスの人はCクラスの人と仕事をしたがる(シリコンバレーの格言)
→自分より優秀な人を採用すること
・イノベーションとは、何も朝起きたときに突然ひらめくものではない。普段のコミュニケーションの中から生まれるものだ(エリック・シュミット)
・First Hundred Days
・上司にやめろと言われたくらいでやめるようなら最初からやるな(ソニー)
→自分がいいものに気がついたら納得するまでやって、上司も納得させなければならない。ただアイディアだけ出して独創性だ、創造性だと言っても仕方ない
→まずは部下の意見を頭ごなしに否定してみる
◎組織経営と量と質
【ソニー設立趣意書】
「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」
「不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず」
「経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがために進みえざる分野に、企業の芯rのと経営活動を期する」
「従業員は厳選されたる、かなり小員数を持って構成し、形式的職階制を避け、一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き個人の技能を最大限に発揮せしむ」
→これらの言葉は今のソニーとグーグルのどちらにあてはまるだろうか
→『イノベーションのジレンマ』における大企業と小規模企業のプロコンにも近くておもしろい
【カリフォルニア工科大学(Caltech)の方針】
・量の増加は質の低下を招く
・ある決められた教科書に従った授業、すでにできあがった理論に関する講釈はせず、教授が思いついたばかりのアイディアやっ最新の論文の背景や経緯、問題解決のアプローチを生々しく伝える。テキストはリファレンスに過ぎない。なまの授業を理解しなければ成績に繋がらない
【政治家や会社経営者などのリーダーに求められる資質】
①革命を起す資質
②革命を察知してそれに最も早く追随できる資質
③革命が顕在化してから迅速にそれに追随できる能力
リーダーにふさわしくないのは、
④革命が起き、世の中が完全に変わったにもかかわらず以前過去の成功体験にこだわり変化を拒む態度
・企業も①又は②のレベルでの企業があり、繁忙期を経て最後は③のレベルで結局追随できないまま衰退するか、最悪は④のレベルでの自然死・突然死。いったん繁忙期を経て大企業となったあと①②に戻り再生するのは奇跡に近い
【その他】
・グーグルはオンライン広告と言う収入源が片方にあって、全ての活動資金稼ぎはそこに任せている。その上で、それ以外の活動は特にビジネスモデルは存在せず、そこで細かな採算の心配をする必要は無い
・大企業になると完璧を求めてしまう
-サーバの故障率を95%から100%にしようと追求する姿勢
-使い捨てと捕らえて95%の故障率のまま、どんどん置き換える姿勢
・・・
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懐かし過ぎてニヤケる(笑)
... なぁと思ってます またガイチ君のシヴァーブリンが ま...
2011-04-03 Sun 13:17:52 | ライブハウスは狭いね
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