2011-03-15 Tue
『ソフトウェア開発で伸びる人,伸びない人』
荒井玲子
2006年
技術評論社
★★★★
<目次>
第一部 ソフトウェア開発で伸びる人、伸びない人
1. よくある疑問
2. ソフトウェア開発で伸びない人
3. ソフトウェア開発で伸びる人
4. これからのソフトウェア技術者
第二部 ソフトウェア開発で幸せになれる人、なれない人
5. ソフトウェア開発で幸せになれない人
6. ソフトウェア開発で幸せになれる人
7. 技術者としての幸せとは

◇で、どんな人が伸びるの?
とても大雑把に一言でまとめると、「会社のため」でなく「仕事」としてソフトウェア開発をするべき、となるでしょうか。
著者はオブジェクト指向技術の普及に貢献してきたということで、本書で挙げられる例も技術者がオブジェクト指向を習得するまでの出来事が多くなっています。
オブジェクト指向は、ソフトウェアの歴史からいっても、手続き型から抽象データ型への転換という大きなマイルストーンの1つです。いまではほぼ常識のように普及していますが、黎明期には大変な苦労があったようで、その様子を垣間見ることも出来ます。
たとえば、新技術を導入するのに厄介なのは中堅技術者。なまじこれまでの経験、実績があるものですから、新技術の必要性を感じておらず、習得の意欲が薄いことが多いそうです。
そうした人々を単純に「伸びない人」と断ずるのは簡単ですが、本書のいう「伸びる人」の特徴は日々の意識の持ち方が大きな要素であるため、まぁなかなか難しいともいえます。論理的思考力だのコミュニケーション能力だのはよく言われることですが、その基盤となる仕事への姿勢を見直すことの必要性を訴えています。
技術なんて1冊本を読めば身につくぜ、といった考え方から変える必要がある、ということですね。そんなこと畏れ多くて思ってもいませんが。
◇本の責務
上記のとおり、本書では、伸びる人と伸びない人の比較とその分析が中心となっており、ではどうすれば伸びるのか、について具体的なノウハウについてはほとんど触れられていません。
私は一読してそれが物足りないと思ってしまったのですが、「本書の役割」を考えたときに、実は著者は狙ってこのようなスタンスをとったのではないかと気づきました。
つまり、本の責務を考えてみるわけです。
「本」クラスを考えてみます。
本書の役割(機能)は、伸びる人と伸びない人の行動や発言、思考法を分析して、それぞれの特徴を抽出することです。
これは書名でも示されている通りです。書名がインスタンス(オブジェクトの具体例)名であるとすると、まさに過不足なく本書の特徴を最も端的に表した言葉であるといえます。
私は、この責務の範囲を見極めるのがオブジェクト指向のキモだと思っているのですが、わかってやっているとしたら(もちろんわかってやってるでしょうが)著者のスキルは相当なものだな、と思います。別に上から目線なつもりはなく、単にすごいな、と言っているだけですが。
◇
本書を読んでも特定の技術は身につきませんが、どのようにソフトウェア開発に取り組むか、というヒントにはなります。しかも、ソフトウェア開発に限らず、どんな仕事でも応用できる考え方ばかりです。
ひょっとしたら本書は、ソフトウェア業界についてよく知らない人が、ソフトウェア開発者とはどういう生き物なのかを知るためにとても有効かもしれませんね。技術用語は出てきますが、技術そのものについて詳しく述べるわけではないので、一般向けの読み物としても読みやすいと思います。
自ら本を読み、自ら学び、自ら作る。
著者の言葉を借りれば「ソフトウェア開発は、その仕事自体がクリエイティブを持っているという点で、恵まれた仕事といえます」
とはいえ、ただ自分で考えてやれと突き放すわけではありません。
各章ごとに数冊ずつ参考書が紹介されていますが、各所でよく引用される名著が多く、この点だけでもかなり「使える」本だと思います。
才能も、学歴も、これまでの経験も、ある意味ではやる気さえも関係のない「伸びる人」の特徴とは、どういうことなのか。
読み返すたびに初心を思い出させてくれる、私には不可欠の1冊です。
** 著者紹介 **
荒井玲子(あらい・れいこ)
1991年から日本国内企業へのオブジェクト指向技術普及活動に携わる。富士ゼロックス情報システム 関連するタグ sing 【一般書】 【科学/技術/専門】 新井玲子