2011-03-19 Sat
すっかり夫婦仲の冷え切ったインド系夫婦の家に、1通の通知が届く。「3月19日から5日間、夜8時から1時間の停電となります」
外に出歩くわけにも行かないので、自然と2人はそろってキッチンで夕食をとることになる。
ロウソクの灯では互いの表情はわからない。そんな中、妻のショーバが提案をした。
「インドでは停電があると、おばあちゃんがみんなにおもしろい話を言わせるの。私たちは停電の間、これまでお互いに言えなかったことを打ち明けることにしない?」

ジュンパ=ラヒリ著,新潮文庫,2003年2月
★★★
<目次>
・停電の夜に
・ピルザダさんが食事に来たころ
・病気の通訳
・本物の門番
・セクシー
・セン夫人の家
・神の恵みの家
・ビビ・ハルダーの治療
・三度目で最後の大陸
本作はインド系イギリス人による短編集で、これによりオー・ヘンリー賞やピュリッツァー賞(ノンフィクション部門)など多くの賞を受賞しています。
かなり昔に読んだ本だったのですが、今回の計画停電を受けて読み直してみました。時間が経って改めて読んでみると、また違った感じ方ができておもしろかったです。

◎冷え切った夫婦に訪れた夜
前半で著者は、冷え切った夫婦仲を丁寧に丁寧に書いていきます。それぞれの生活や習慣を描くことで2人がどんな人物なのか、どんな背景を持っているのかを読者に伝えると共に、それを通して夫婦の変化がしっかり描かれているのがおもしろかったですね。
新婚の頃と、冷え切った今と、妻の性格や自分の心情がしっかり描かれていて、人と人との「溝」の寂しさを感じさせられました。
振り返ってみると、冷え切った原因については特に明示はされません。
恋が冷めるのは、特別な理由やきっかけは必要じゃないということでしょうか。ただ変化のみが事実として横たわる、それが読んでいてとても切なかったです。
もっとも思い当たる節はあって、物語のオチであり伏線としても描かれているある出来事が、2人の距離を作ってしまったのかとも思われました。だけど「それが原因」と言って済ませるほどには、人間関係というのは単純じゃないんですよね。
ハイライトはやはり停電。
停電の5日間、毎日1つずつお互いの秘密を打ち明けていくうちに、2人は忘れていた時間を取り戻していきます。この、夫が次の夜に何を話そうかとドキドキする様子や、ドキドキしながらも2人の仲が戻っていく過程は、結末がどうなるのかとハラハラさせます。
そしてあまりにも残酷なオチ。
物語の最後は次の1文で締めくくられています。この文章がまた重い。
2人で泣いた。知ってしまったことに泣いた。
決して浮気もなくマジメに暮らしていた2人が、ただ停電の夜に告白しあう物語。
それだけなのに、ただの一言がものすごく残酷に刺さります。それは言われた方もだし、言った方もものすごく傷ついたんじゃないでしょうか。
その傷つくということがきっと相手を思いやる最後の砦だったんだろうけど、言ってしまったことで二度と取り返しはつかなくなって、切ない余韻となっていました。
◎計画停電が続いています
東日本大震災から昨日で一週間。事態はまだまだ収まりませんね。
水戸で被災した友人に電話したところ、「電気が届いてないから辺りが暗い。だけど星がとてもきれいによく見える」と言っていました。
関東圏では計画停電が実施されており、企業活動から私生活まで、様々な影響が出ています。
でもこんなときだからこそ、環境の変化を前向きに捉えて、新しい発見をしていきたいですね。僕の会社でも定時退社が義務付けられているのですが、自分の生活を見直すいい機会にしたいと思っています。
「発見という行為の真の意味は、新しい土地を見つけることにあるのではなく、新しい目で物を見ることにある」(マルセル・プルースト)
** 著者紹介 **
Jhumpa Lahiri(じゅんぱ らひり)1967~
両親はインド出身で、本人はロンドン生まれ。現在はニューヨークで活動。
『停電の夜に』でオー・ヘンリー賞・ヘミングウェイ賞・ニューヨーカー新人賞・ピューリッツァー賞 フィクション部門を受賞。
(wikipediaより)
Otoya
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