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ラ・フォル・ジュルネ
【時代小説】『義経』
本史は、彼をもって初めて英雄というものを手に入れた。



義経〈上〉 (文春文庫)
 『義経』(上・下)

  司馬遼太郎著,文春文庫,
  ★★★★













「乱世」特集第2弾は『義経』です!
(特集第1弾はこちらからどうぞ)

源義経と言えば、いわずと知れた源平合戦の麒麟児。
武蔵坊弁慶などを従え平家を追い詰めますが、最後は兄・頼朝に殺されます。
本書は義経の誕生から最期までを描く司馬遼太郎の傑作。
前回紹介した『定家明月記私抄』でこの平安末期~鎌倉初期に興味を持ったので、今回は歴史の主人公の視点からこの時代を読んでみました。


========


◎カルチャーショックはいつの日も

① 公家が白昼、武士の妻を犯した。
② 公家はその場で武士に斬られた。
③ 武士は公家を斬ったために、斬罪(死刑)に処せられた。


これは前回紹介した『定家明月記』での、藤原定家の日記に書かれていた事件。
みなさんはこの事件について、どう思われるでしょうか?

実は千年前の公家は、源氏物語などにも見られる通り、(今から見れば)相当に乱れた性の文化を持っていました。もう文字通りやりたい放題。
一方で当時関東で発祥したばかりの武士は、貞操観念を大事にしました。
これは、これら異なる2つの文化の衝突が生んだ事件です。


司馬遼太郎はなにしろ、文化を客観的に俯瞰して書くことのがうまいですよね。
今考えれば当たり前のことや、とても理解できないことでも、当時の人にとっては予想外であり、あるいは当たり前になる。そのことを重々意識して描写してくれるので、この『義経』でも千年前の様式に読者は違和感なく入ることができるでしょう。
この「文化」という目に見えない背景を知ることで初めて、登場人物たちの何がすごかったのか、なぜそのような行動をとったのかを等身大で理解することができるようになるんじゃないかと思います。

冒頭の事件。
武士にすれば、自分の妻を犯すなんてありえない。万死に値する。
一方で公家にすれば、ちょっと手を出したなんて挨拶代わりのようなものなのに、なぜ斬られねばならないのかかわらない。武士の行為は理不尽である。
どちらにも言い分があるんです。僕は背景を知るまで、公家が一方的に悪いと思ってましたが。

文化を知ってはじめて、事件や歴史考えることができると思います。



◎さて義経。

蹂躙される王都。
勃興する坂東。
富める独立国でありながら、蛮地でもある奥州。
平家の浮かぶ要塞、瀬戸内海。


今とは全く違う地政の上で、義経は地を走り馬を駆り、平家の首を追い求めます。
後世にも伝わる義経の戦術の、何がすごかったのか。

まず特筆されるのは、武者の集団を「部隊」として扱い、「戦略」をもって指揮したところ。
信長の時代なら常識となるこの思想は、武者一人一人が個別に武勇を競う義経の時代には、革新的なものでした。

そして義経自身は、騎馬武者のみにより構成される機動部隊を率いて、有名な鵯越の成功をおさめます。
後世に「騎兵」と呼ばれる、日本が近代を迎えるまでについに誰も想像することのできなかったこの概念について、司馬遼太郎は明治の軍人・秋山好古の事例を借りて説明し、もって天才と評します。

――騎兵の特質はなにか

と、明治陸軍の騎兵監であった秋山好古は陸軍大学の学生に講義したとき、いきなり拳をかため、素手をもってかたわらの窓ガラスをつきやぶり、粉砕した。

――これだ。

という。素手が、血みどろになった。要するに騎兵は敵の意表を衝き、全滅を覚悟した長距離活動と奇襲を特徴とする(中略)。
義経は、明治よりはるかな以前に近代戦術思想の世界史的な先駆をなした。




◎画竜点睛を欠く

しかしながらこの天才は、天才であるがゆえに理解されることはありませんでした。
そして司馬遼太郎の『義経』を最も特徴付けている点が、義経の政治的痴呆です。

著者は痴呆・痴呆と連呼しますが、この政治的な無感覚さこそ義経の悲哀の原因であり、そしてその後千年彼が愛され続ける理由なのです。
ここに司馬遼太郎の義経への最大の愛を感じます。

政治的痴呆という致命的な欠陥を持ちながらも、軍略にかけては天賦の才を持つ義経について、武蔵棒弁慶、源頼朝、後白河法皇、平知盛といった人々を通して、読者は彼を俯瞰することになります。
(特に後白河法皇との絡みが実に興味深く描かれていました)

頼朝挙兵、木曽義仲の入洛と追放、そして義経による鵯越から下関での活躍と、その後待ち受ける運命。
ストーリーが軽快に進む中で、義経を主軸に展開ながらも、やはり主人公は「歴史」であるという、司馬遼太郎の醍醐味を十二分に感じ取れる小説でしょう。

そして何より、一騎で時の権力者集団・平家を駆逐する姿は、判官贔屓の言葉のとおり、まさに痛快の一言。ぜひ、日本史が持った初めての英雄をご堪能下さい。



◎次回予告

ということで『義経』を読んで一言。

 ・乱世の影には異文化の台頭がある
 ・神速に勝る武器は無い。研ぎ澄まし、常識を破りこれを得よ
 ・天は二物を与えず。時に立ち止まり、自らの短所を省みるべき


そして次回は時代をくだり、次なる乱世に生きた英雄を紹介したいと思います。
未だかつて無い絢爛な描写は、乱世とそして英雄を、どのように彩らせるでしょうか。


** 著者紹介 **
司馬遼太郎(しば りょうたろう)1923~1996
産経新聞社在職中『梟の城』で直木賞を受賞。以後、俗に「司馬史観」と呼ばれる独自の歴史観に基づいて数多くの作品を執筆、歴史小説に新風を送る。歴史考証が極めて巧みで、歴史家でもどこからが史実でどこからがフィクションかわからないことがある。
戦国・幕末・明治を扱った作品が多く、代表作に『国盗り物語』『竜馬がゆく』『坂の上の雲』など。
また、『街道をゆく』をはじめとするエッセイなどで活発な文明批評を行った。
1993年文化功労賞、1996年従三位追賜。
(Wikipediaより)



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** これまでの乱世シリーズ **
1) 平安鎌倉 『定家明月記私抄』
Otoya


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関連するタグ Otoya 【小説】 【時代小説】 【乱世特集】 司馬遼太郎 【文芸書】
時代小説 | 01:41:33 | トラックバック(1) | コメント(0)
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司馬版「義経」読了。
 本年度NHK大河ドラマの主人公・滝沢タッキー義経は?情愛の人?と多少美化されているきらいがあるが、本書では彼の長所・短所がより露骨に端的に描かれていてまさに「司馬史観・義経」。  決して?いい子ちゃん?ではなく実に人間臭いんである。  作中の義経は、...
2009-06-20 Sat 03:38:27 | <徳島早苗の間>