2009-06-28 Sun
「露と落ち 露と消えにし 我が身かな 浪速のことは 夢のまた夢 」
-絶妙な計算とかけひき-』
村松駿吉
昭和56年4月 日本文芸社
★★
「乱世」特集第4弾は、天下の太閤様、関白殿下、豊臣秀吉です。
(これまでの「乱世」特集はこちらから。

目次
序章 戦国武将の中でも特異な存在
第1章 一歩後退二歩前進の放浪時代
第2章 大胆に自分を売り込む行動派
第3章 実力で切り開いた出世コース
第4章 常に労苦を惜しまない努力人
第5章 硬軟自在に敵を制す外交手腕
第6章 連戦連闘を乗り切った研究心
第7章 不可能を可能にする粘り強さ
第8章 信長の横死に燃え上がる野望
第9章 底の知れない人たらしの秘術
第10章 政治家としても抜群の統率力
第11章 国取りの野心は果てしなく…
豊臣秀吉の生涯を追い、現代に通じる発想・行動指針を学ぶ伝記。
戦国時代を概観するのに適しています。
◇秀吉の幸運と計算
・織田信長を主人に持ったこと
・本能寺の変をきっかけに天下が転がり込んできたこと
この2点を秀吉最大の幸運とし、そのチャンスを生かしてきた秀吉の生き様を紹介しています。
特に秀吉の得意とする調略においては事例を数多く提示しています。
敵陣にひとりで乗り込んでいったり、泣き落としたり、ホメ殺したり。
「人たらしの天才」と言われる所以がよくわかります。
特に、毛利征討を掲げる尼子勝久の上月城攻めへの参加は非常に詳しく描かれています。
秀吉の部下にも大きな変化があるこの一連の戦いは、
わかりやすく書いてある本は意外と少ないので、貴重かと思います。
◇秀吉の周囲の人々
竹中半兵衛。秀吉の教育係であり友人でもある天才軍師。
秀吉を知識・教養を身につけた戦国武将に育て上げたことが詳しく書かれていて、
半兵衛好きの自分としては好感。
ちなみに、戦国三大軍師に、私なら半兵衛を入れたいんですが、やっぱりダメでしょうか?
(誰を除くとはあえて言いませんが)
織田信雄(のぶかつ)。信長の次男。
信長死後、家康と共に秀吉に対立する。
家康が戦の大義名分を得る為に重要な人物。
その対立の経緯がよくわかります。
他には、賤ヶ岳七本槍や、五大老五奉行などが、無駄に羅列してあるのも気に入りました。
必要ないだろ、秀吉「入門」なら。
ちなみに。
賤ヶ岳の七本槍
福島正則、加藤清正、加藤嘉明、脇坂安治、平野長泰、糟屋武則、片桐且元
五大老
徳川家康、前田利家、毛利輝元、宇喜多秀家、小早川隆景(上杉景勝)
五奉行
浅野長政、石田三成、増田長盛、長束正家、前田玄以
明日使えないムダ知識。
◇いくらなんでも…
しかし、著者は秀吉が大好きらしく、記述にだいぶ偏りがあります。
桶狭間に始まり、比叡山焼き討ち、将軍を伴う上洛など、
信長の功績を、ほぼ全て秀吉の進言または働きによるものと
位置付けているのはやりすぎでしょう。
最後には信長は秀吉の言うことを聞くだけになってしまっています。
秀吉が、孤高の戦国大名・信長の数少ない理解者だったにしても、ほぼドラえもんとのび太状態。
信長好きな私としては怒るところかもしれませんが、それを通り越して笑える傾倒ぶりです。
また、本書は小説ではありませんが、イメージしやすくするため、所々でセリフ・会話が入ります。
これが見事に裏目に出てしまっています。
どう見ても不自然な偏りなので問題はないかと思いますが、
これを踏まえたうえでなら、日本最大の乱世を収束させた男の一生を辿ることで、
現代にも通じる学ぶべき事柄が見えてくるのではないかと思います。
◎次回予告
あえてフォローするなら、本書の出版年。
当時、歴史解釈・判明している事実はもちろん現代とは異なります。
また、カバーの帯には「戦国武将に学ぶ経営戦略書」と書かれているように、
本書はビジネスマンに向けて書かれています。
歴史人物の生涯を追って“経営”に生かすという試みは、当時としては画期的
だったんじゃないかと20代の私が勝手に思いました。
最後に一言。
・チャンスが見えたら、後は自らの力で引き寄せること ・そのためには普段、どのような思考をしているかモノをいう ・偏りすぎた主張は説得力が薄れる |
それにしても、本日の『天地人』の秀吉は扱いがヒドかったですね。
次回は、引き続き戦国時代ですが、武士でなく、とある文化人の物語です。
** 著者紹介 **
村松駿吉 (むらまつ しゅんきち)
1902年 、松江市生まれ。新聞記者を経て、新国劇文芸部に勤務。昭和14、15年のサンデー毎日・大衆文芸賞に3回連続入選。歴史小説、戦国軍記物を得意とし、特に正史にはない裸の武士像を描き出すさきがけとなった。(本書より)
** 他にこの作品を紹介しているサイトさん **
※あまりに古い本のため、該当なし。
** これまでの乱世シリーズ **
1) 平安鎌倉 『定家明月記私抄』
2) 平安鎌倉 『義経』
3) 戦国大乱 『GOEMON』
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