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ラ・フォル・ジュルネ
【時代小説】 『漆の実のみのる国』
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漆の実のみのる国〈上〉 (文春文庫) 『漆の実のみのる国』
 藤沢周平著,文春文庫,2000年2月

 ★★


















乱世特集第8弾は、前回に引き続き江戸時代のお話です。
本書は上杉鷹山を描いた藤沢周平の最期の著作。
太平と言われた江戸の世で、破綻寸前の米沢藩から何が見えてくるでしょうか?
(乱世特集はこちらからどうぞ)


========


** あらすじ **
“越後の虎”上杉謙信が権勢を誇ったのも今は昔。
慶長6年(1601年)、徳川家康に敗れた上杉家は、それまでの会津120万石から米沢30万石に減知・転封され、さらに寛文4年(1664年)には僅かに15万石に削られる。
にもかかわらず上杉家は家臣の召し放ちを行わず、120万石時代と変わらぬ家臣団を抱え、財政悪化を招くのだった。そして凡庸な藩主を頂く米沢藩は破綻寸前に追い込まれる。
絶望に包まれる明和4年(1767年)、後に鷹山を号する上杉治憲が藩主に就く。
そして重臣・竹俣当綱は米沢藩復活をかけ、漆百万本、桑木百万本、楮百万本を植える再生計画を上梓した。




◎上杉鷹山が今いたら絶対お昼の番組で節約術披露してる

ということで、まずは米沢藩の収益(石高)と被扶養戸数(武士の数)を見てみます(下表)。
こちらは「元・天津駐在員が送る中国エッセイ」さんのブログを引用させていただきました。
本書によれば、元禄5年の米沢藩の武士とその家族が3万1千人であるのに対し、農民の数は8万8千にとどまります。米を経済の基本単位とする江戸時代においては、困窮しない方がどうかしています。

  米沢藩  15万石 5,000人
山形水野藩   5万石   505人
庄内酒井藩  17万石  1,966人
金沢前田藩  102万石  9,853人
「元・天津駐在員が送る中国エッセイ」(shinoperさん)より

と、1枚の食パンで1日を過ごすような初期設定にもかかわらず、東北地方を襲った天明の飢饉は米沢藩民の餓死フラグをより確実なものへと導きます。
これへの対処法と言うのが、上杉鷹山のお家芸である「倹約」
もうね、エコとかそんなレベルじゃないよ。
ケネディ大統領やクリントン大統領は一番尊敬する日本人政治家として上杉鷹山を1番に挙げたそうですが、エコという点ではアメリカはもう少し見習って欲しいです。


ストーリーはそんな感じで忍耐の連続Mにはたまらない読んでる方もなんだか苦しくなってきます。
飢饉があったり主人公が更迭されたり、米沢藩の行く先は暗くなるばかり。
そんな中で唯一希望の光となるのが、重臣・竹俣当綱の「三百万本植樹計画」
ところがこの再生計画が実を結ぶ前に、著者・藤沢周平氏が亡くなってしまい、物語は未完のまま幕を閉じるのでした…。読者的には結構残念な最後です。

ちなみに、関ヶ原後、米沢への減封時にリストラを行わず「お前らみんなついてこい!」と言った太っ腹は、大河ドラマで活躍中の直江兼継でした。
この直江兼継はそもそも関ヶ原での敗戦を招いた張本人ということで、長く米沢藩の人々には怨まれていたようです。



◎聞こえてくる革命の足音

竹俣が上梓した三百万本植樹計画は、3種の樹を育てることで、商品価値のある漆や蝋を得て収入源にしようというものでした。
米だけでは無理だから他のものにも、ということですが、これは一方で米以外でも富を蓄えることが可能になったということを示しています。
武士は農民から米を得て収入としますが、上記のような商品経済の台頭は、武士以外も富を創れるようになったこと、武士という支配階級の想定しない経済が本格的に動き出したことを意味するのです。
これは、本書にも登場する三谷などの御用業者からも言えるでしょう。


こうして価値観の逆転が起きている中で、それを取り入れようとした竹俣の目は明るいと言えます。しかし一方で、なぜこの三百万本計画は容易には達成できなかったのでしょうか。

本書において、米沢藩の木蝋は西国の櫨蝋により市場から駆逐されてしまいます。
マーケティングに4P(Product, Place, Price, Promotion)という概念がありますが、要するに米沢藩はProduct(製品の魅力)で勝つことができず、競合への対処もできなかったというわけです。
明治になり、武士の商売下手を揶揄して「武士の商法」という言葉が生まれましたが、そのことを表すエピソードとも言えますね。

ただこれは、計画者である竹俣1人の責任に帰すのは酷でしょう。
事業で重要になるのはやはり人材だと思うのですが、米沢藩に他に頼れる人材がいなかった事が計画遅滞の主因だと考えます。もちろん本書では竹俣以外にも頭の切れる人物は登場しますが、数えるほどでしかありません。
数千人の支配階級・武士を抱えながらもベストのソリューションを出せなかった武士階級とその社会構造に、すでに革命の火種は内包されていたのです。


革命はいつも、生活・生命が脅かされるようになったとき起こります。
すなわち食べ物が食べられなくなったとき、つまり経済に不安が起きたとき。
徳川幕府崩壊の原因はこのように、米経済の崩壊と商品経済の台頭が根底にあり、それに伴う社会不安から尊皇攘夷を掲げる水戸学などが醸成しました。
黒船の来航は単に引き金に過ぎず、革命の序曲は維新より100年遡ったこの時代から、すでに奏でられていたのです。



◎まとめ

肥大化した無能な官僚組織と無駄な政治抗争
経済構造の変化
食糧危機
飢饉(世界恐慌)による事業の阻害


なんだか色々と考えさせられる内容でしたが、さて本書のまとめです。

 ・革命が起きたときにはもう遅い
 ・計画通りにいくと思うな
 ・広い視野こそが我が身を救う


乱世特集も残すところあとわずか。
次回は、乱世に運命を翻弄された男の物語をご紹介します。



** 著者紹介 **
藤沢周平(ふじさわ しゅうへい)1927~1997
江戸時代を題材とした作品を多く残し、司馬遼太郎、池波正太郎に並ぶ歴史作家で。
出身地である山形県鶴岡市にあった庄内藩をモデルにした、架空の藩「海坂藩」を舞台にした作品は有名。
代表作に『蝉しぐれ』『たそがれ清兵衛』『隠し剣シリーズ』など。



** この本を紹介しているサイトさん **
「元・天津駐在員が送る中国エッセイ」さん
  →こちらの記事もおもしろいです
「日々雑録または魔法の竪琴」さん
「漆の実のみのる国・感想」さん
「時代小説県歴史小説村」さん
「千歳山残業日録」さん


** これまでの乱世シリーズ **
1) 平安鎌倉 『定家明月記私抄』
2) 平安鎌倉 『義経』
3) 戦国大乱 『GOEMON』
4) 戦国大乱 『秀吉入門』
5) 戦国大乱 『へうげもの』
6) 江戸治乱 『人斬り以蔵』
7) 江戸太平 『お江戸でござる』
Otoya


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関連するタグ Otoya 【小説】 【時代小説】 【乱世特集】 藤沢周平 【文芸書】
時代小説 | 23:46:20 | トラックバック(1) | コメント(0)
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藤沢周平: 漆の実のみのる国
【覚書】★★★★★★★★★☆ 米沢藩中興の祖であり、江戸時代を通じて名君の誉れの高い上杉鷹山を主人公とした小説である。藤沢周平は以前に同じテーマで「幻にあらず」を書いているが、藤沢周平としては珍しい...
2009-08-08 Sat 20:01:23 | 時代小説県歴史小説村