2009-07-18 Sat
「宵越しの銭は持たねぇ」のはなぜか知っていますか? 
『お江戸でござる』
杉浦日向子
新潮社
平成18年7月
★★★★
乱世特集第7弾は、これまでとは打って変わって天下太平です。
江戸時代の庶民の生活を通して、日本人の魂を見てみましょう。
(乱世特集はこちらからどうぞ)

第壱章 私たちの文化と江戸の文化
第弐章 今も残っている江戸の風景
第参章 私たちの暮らしと江戸の暮らし
第四章 これぞ、「お江戸」でござる
第伍章 よみがえらせたい江戸の知恵
第六章 江戸はこんなに進んでいた
本書は、同名のTV番組の1コーナーが書籍化されたものです。
しかし、ただ江戸時代の生活風俗を解説した本ではありません。
監修者は江戸時代に生きていたんじゃないか?、と
思ってしまうほど具体的でリアリティに富んでいます。
どちらかといえば、“解説”というより“観光案内”してもらっている感じです。
テーマは非常に幅広く、とにかく何でも扱っています。
士農工商(ちなみに、これは身分の上下ではなく職種としての分業を表すコトバ)
に始まり、瓦版、浮世絵、火消し。
さらに、世界屈指の識字率の高さ、舶来品や蘭学、果ては幽霊や河童まで扱う懐の深さ。
◇江戸らしさ、日本らしさ
乱世を生き抜く力を持つ人間が、乱世が終わったとき何にその力を向けるか。
本書を読むと、文化・技術・エコなど様々な分野で日本人らしさが発揮されていることがわかります。
特に経済面はすごい。
歴史学の渡辺昇一氏は、先物取引が欧米に先駆けて行われていたことを高く評価していますが、
当時の庶民の経済感覚の鋭さは本書でも指摘されています。
江戸のエコビジネスが半端ないことを耳にしたことのある方も多いかと思いますが、
現代のエコ騒ぎでは到底かなわない程の徹底ぶりです。
“宵越しの銭”と当時世界有数の水道に共通する考え方とは何か?
重要なネタバレになるので答えは書きませんが、
これは町や組織における進化・発展の本質を突いているのではないかと思います。
◇ドタバタの乱痴気騒ぎ
監修者は、“長屋”を江戸の象徴としています。
現代からみたら鍵も掛からない狭いアパートにすぎませんが、彼らは“町単位”で生活していたため、
自宅は寝室程度のもので充分なのだそうです。
江戸の町はとにかく多くの人が集まり、いろいろなモノが流れ、毎日何かが起きていました。
そんなゴッチャゴチャが日常だったのでしょう。
戦争はなくとも、これもある意味“乱世”と呼べるのかもしれない、と思い、
乱世特集にも関わらず敢えて組み込んでみました。
私はさらに“八百万の神”信仰が日本人の根底にあるからだと思います。
宗教というより日本に住む民族として、かな。
(決して日本を単一民族国家と言ってるわけではないです)
でもやっぱり、一番大事なのは“粋”ですね!
◇江戸小説の伝播
本書で扱うテーマごとに、関連する書籍を紹介してみます。
これは随時更新しますんで、ちょくちょく見に来てくださいまし。
・お化け幽霊→『嗤う伊右衛門』(四谷怪談)amazon
・剣道→『燃えよ剣』』(北辰一刀流)amazon
・岡っ引き→『鬼平犯科帳』 』amazon
・富クジ→『当て屋の椿』 』amazon
・瀬戸物→『へうげもの』(時代違うけど)
緒方洪庵の“適々斎塾”門下生
福沢諭吉(『学問のススメ』)、大村益次郎
最後に本書から引用。
店主の心得を表した文言ですが、店を他の言葉に置き換えても通用しそうです。
・店は主の物と思うべからず。 店を譲り受け、また譲り渡すまでの三十年間の奉公人と思うべし |
次回は、江戸時代のとある藩の経済活動から乱世への道を紐解きます。
** 著者紹介 **
杉浦日向子(すぎうら ひなこ)
1958年11月30日 - 2005年7月22日、東京都港区出身。本名:鈴木順子。
『通言室之梅』でデビュー以降、漫画家、江戸風俗研究家、エッセイストとして活躍。
浮世絵を下地にした独特な画風を特徴としながら、かつ、江戸風俗の描写に定評がある。
2005年7月22日、下咽頭癌のため死去。
代表作『東のエデン』『奥の細道俳句でてくてく』『百物語』など。(Wikipediaより)
** この本を紹介しているサイトさん **
・「プリオシン海岸」さん
・「ほぼ日刊時代小説」さん
・「杉浦日向子ファンサイト―江戸から来た人」さん
** これまでの乱世シリーズ **
1) 平安鎌倉 『定家明月記私抄』
2) 平安鎌倉 『義経』
3) 戦国大乱 『GOEMON』
4) 戦国大乱 『秀吉入門』
5) 戦国大乱 『へうげもの』
6) 江戸治乱 『人斬り以蔵』
sing
関連するタグ sing 【小説】 【エッセイ】 【乱世特集】 杉浦日向子 【文芸書】
『お江戸でござる』を読む。かつてNHKで放送されていた人気番組『コメディーお江戸でござる』の中で、日向子さんが江戸の生活や風俗を解説した『おもしろ江戸ばなし』のコーナーを、一冊の本にまとめたものである。さまざまな江戸の暮らしや文化を、現在のそれになぞらえ
2009-07-20 Mon 00:07:44 | プリオシン海岸 -読書の愉悦-
2009-07-20 Mon 00:07:44 | プリオシン海岸 -読書の愉悦-