2009-08-02 Sun
はい終わりましたね乱世特集。特集企画としてこれまでに、乱世を描いた10作品をご紹介させていただきました。
“愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ”(ドイツ帝国初代宰相ビスマルク)
の精神の下、今回は日本の乱世を辿ることで、現代に通じる“何か”を探ってみよう!
という後付け感たっぷりのテーマに従い、ちょっとした振り返りをしてみようかと思います。
1) 平安鎌倉 『定家明月記私抄』
歌人・藤原定家の生涯を記した日記『明月記』から、平安→鎌倉の混乱と、
その中で歌道を確立した定家の生き様を解説。
2) 平安鎌倉 『義経』
乱世を駆った日本史初の英雄を、その稀代の才能と政治的痴呆という2つの
側面から描く。
3) 戦国大乱 『GOEMON』
自由と果たすべき義務の狭間で揺れる大泥棒が、乱世に裏から切り込み、
駆け抜けます。
4) 戦国大乱 『秀吉入門』
チャンスを生かす機転の事例と、夢に突き進む情熱・信念を天下人・秀吉に
学びます。
5) 戦国大乱 『へうげもの』
熾烈を極める下克上の乱世において、『出世』と『数寄』とを秤にかけて、その
いずれもの大成をももくろむ古田織部正の物語。
6) 江戸治乱 『人斬り以蔵』
戦国→江戸、江戸→幕末の両時代を描いた短編集。
有名無名を織り交ぜながら、それぞれの生き様を綴ります。
7) 江戸太平 『お江戸でござる』
太平の時代の人々の生活をのぞこうと江戸の町並みをウロウロ。
乱世を生き抜く力を持つ人間は、平和時に何にその力を向けるでしょうか。
8) 江戸太平 『漆の実のみのる国』
幕末から遡ること100年。上杉・米沢藩は破産寸前の危機にあった。
藩経済を立て直す”三百万本植樹計画”は、成功するのか?
9) 幕末維新 『十一番目の志士』
人斬り・藤堂晋助は、思想無きままに幕末の日本を彷徨い、剣を振るい、
運命の赴くままに進みます。
10) 幕末維新 『燃えよ剣』
時代の変化に立ち上がり、時代の変化に翻弄された新選組副長・土方歳三の
生き様をたどります。

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さて、それぞれの作品を紹介する中で、毎回ちょっとしたポイントをまとめてみたのですが、
それをもとにしてOtoya sing が考えたことをちょろりと述べてみたいと思いますよ。
◎けっきょく乱世ってなんすかね?
乱世や革命について、次のような感想が得られました。
・乱世の影には、異文化や新たな価値観の台頭がある
・革命は気付かぬところで進行していて、起きたときにはもう遅い
・その時代を生きる人にすれば革命は、得てして滑稽なものである
坂東(関東)という新しい概念がついに貴族政権を滅ぼした、平安時代の終焉(『義経』)。
商品経済の台頭により機能不全に陥り、ついに幕末を迎えた徳川政権(『漆の実のみのる国』)。
などなど、乱世・革命の影にはいつも異なるイデオロギーの発生と衝突がありました。
ところが、ほとんどの人々は新たなイデオロギーを知りつつも、その本当の意味での台頭と、さらには既に革命が起きていることに気付けないという不思議。
これは革新技術について述べた『イノベーションのジレンマ』でも触れられました。
昨今では例えば、サブプライムローン問題から世界不況までにタイムラグがありましたが、本当の意味で危機感を持てていた人はどれだけいたのでしょうか?
(僕は完全に他人事モードでしたが、ボーナスをいただいてようやく危機感を得ました・・・)
そして革命の後、イデオロギーは定着しやがて伝統になっていきます。
しかし「美」に代表される人の価値観はそれに満足せず、必ずそれを割り砕く何者かが現れるのです(『人斬り以蔵』、『へうげもの』)。
◎乱世で彼らが夢見たものは
この特集では小説を中心とした作品を紹介してきました。
そこでは、乱世の波に飲まれながらももがく人の生き様が描写され、そして史実であれ架空であれ、彼らには信念がありました。
・人生には、選ばなければならないときがある
・チャンスが見えたとき、自らの力で引き寄せなければならない
これを実現するためには、普段、どのような思考をしているかモノをいいます。己の出来ること、為すべきことを考え、いざチャンスがきたら逃してはなりません。
最後まで戦の機を支配した源義経(『義経』)、いかなるときも常に数寄に目を見張る古田織部正(『へうげもの』)、調略という天賦の才をもって自らのポジションを最大限に活かした豊臣秀吉(『秀吉入門』)。
彼らは、チャンスを得たら迷いません。
自らの道を決めたら、どんな世の中であろうとも業を貫き通します。
とはいえうまくいくことばかりでもないのが乱世、そして人生。
彼らは二転三転する奔流の中で、時に迷い、時に大胆にその身を翻しました。
・たまには時の流れに身を任せるのも一興
・天は二物を与えず。時に立ち止まり、自らの短所を省みるべき
・あるいは、あきらめてみることもまた1つの道
苦労の耐えないこの景気ですが、時にこうして自分を省みたり、客観的になってみたり、あるいは思い切って身を委ねてみることも重要なのではないでしょうか。
先が見えないからこそ、柔軟な立ち回りが求められるのです。
◎歴史上の人物も一人の人間
・己の出来ること、為すべきことを考える
生きる上では、自分の“役割”を知ることが第一歩となります。
役割とは、身近な大切な人のためかもしれないし、あるいは、歴史の大きい流れを生み出す(加速させる)ためかもしれません。
その分野も政治(『秀吉入門』『漆の実のみのる国』)、芸術(『定家明月記私抄』『へうげもの』 )などなど、人によって全く違うでしょうね。使命ともいえそうです。
それを自分の中に取り込んで自らの生き方に決めたとき、“信念”になるのではないでしょうか?
自らの信念、叶えたい理想という強い思いがあるからこそ、他人にどれだけ反対・邪魔されても自分を貫くことができるのです。
人は、大事な人々や祖国(郷土)を守る、といった重大な責任に加え、同時にこれらの名誉も守らなければなりません。
特に乱世では「命がけ」。これらが生き方(死に方)に直結します。
とんでもない重圧です。
そうした責任を担い、尚且つ、自分の仕事を果たすことができた人物こそ、英雄として歴史に名前が残るのでしょう。
「歴史というものは変転してゆく。そのなかで、万世に易(かわ)らざるものは、
その時代その時代に節義を守った男の名だ。」(土方歳三『燃えよ剣』)
男に限らないと思いますが、自ら決め、自ら動き、そして誰よりも自らを信じた者がどんな世であっても生き抜いて名を残すのではないでしょうか。
そして、そういった英雄たちが連なり、歴史が日々作られているのでしょう。
◎おわりに
さて、予想外に長くかかってしまいましたが、「乱世特集」もこれにて落着。
次回から通常営業に戻ります。
・「出会い」は人生を狂わせ、また「出会い」が運命を導く
これは幕末の人斬りを描いた『十一番目の志士』からの感想ですが、たくさんの人と出会えるというのはこの時代の大きな強みだと思います。
現代の世が後にどう評価されるのかはわかりませんが、楽しんで生きていきたいですね。
Otoya sing
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